「大学に行くか、就職するか」――日本ではよく耳にする進路の分かれ道ですが、世界に目を向けると、その選択のタイミングも仕組みも驚くほど違います。今回は海外の職業教育(仕事に必要な知識や技術を学ぶ教育)の具体例を、わかりやすく見ていきましょう。
そもそも学校制度は国によって大きく違う
調べてみると、何歳から小学校なのか、中学校はどんな形なのか、国ごとに本当にバラバラです。ここでは細かい違いをすべて説明するのではなく、職業教育という切り口で「ダイジェスト版」としてポイントをお伝えします。気になる国は、ぜひご自身でも調べてみてください。
アメリカ:幅広い進路と「統合制ハイスクール」
州によって制度が違うアメリカですが、ざっくり言えば小学校・中学校(ミドルスクール)・高校(ハイスクール)という流れです。日本との大きな違いは、職業教育への向き合い方にあります。
1つの高校で職業科目も普通科目も学べる
日本では「専門学科のある高校」か「普通科の高校」かで分かれるイメージがありますが、アメリカでは両方を1つの学校で学べる「統合制ハイスクール」が増えています。単位制・選択制なので、職業教育の授業も自分で選んで履修できるのです。
- 職業教育プログラムを持つ学校は全体の約88%
- 選択科目として幅広い生徒が職業科目を履修している
- 日本の普通科のように「ほとんど職業教育をやらない」人は少ない
公立の専門教育機関が多いのも特徴
前回お話ししたように、日本の専門学校は約9割が私立です。一方アメリカでは、専門学校にあたる教育機関が公立で運営されていることが多くあります。
- 自動車修理や電気工事などをしっかり学ぶ人
- 職業を学びながら大学にも通う人
- 2年制の職業教育機関を経てから4年制大学へ進む人
- 4年制大学を出た後に、医学部・法学部などの専門学部へ進む人
このように、ストレートに4年制大学へ進むだけでなく、働いたり職業を学んだりしてから専門性を深める道が一般的なのがアメリカの特徴です。日本の法科大学院なども、こうした仕組みを参考にしているのかもしれません。
ドイツ:10歳で進路が3つに分かれる
ドイツはアメリカ以上に「早い段階での進路分岐」が特徴的な国です。日本人の感覚からすると驚くような仕組みになっています。
4年間の基礎学校のあと、3つの道へ
ドイツでは小学校にあたる「基礎学校」が10歳まで(日本の小4〜小5くらい)。その後、なんと3つの進路に分かれます。
- 基幹学校(ハウプトシューレ):約5年間、主に職業訓練へ進む
- 実科学校(レアルシューレ):約6年間、職業訓練や専門上級学校など多様な進路へ
- ギムナジウム:大学進学を目指す人が進む。卒業すると大学入学資格「アビトゥア」が得られる
「10歳で進路を決めるなんて無理!」と感じる方も多いでしょう。実際、これは賛否両論あるテーマです。日本では「努力や教育で可能性は広げられる」という考え方が強い一方、ヨーロッパでは「自分の特性に合った道を早く見つけて深める方がいい」という考え方が根強い、と言われています。
学校と企業をつなぐ「デュアルシステム」
ドイツのもう1つの特徴が、学校での学びと企業での実地訓練を両立させる仕組みです。これを「デュアルシステム」と呼びます。
- 学校に通いながら、実際に企業で働いて職業訓練を受ける
- インターンシップのように現場での訓練を主軸にしている
これは、中世の職人ギルド(同業者組合)で行われていた「弟子入り」の伝統が残っているとも言われています。歴史と教育がつながっているのは、とても興味深いですね。
イギリス:働きながら学ぶのが当たり前
イギリスは「学生」と「社会人」の境目がはっきりしていないのが特徴です。日本のように「まず勉強し、終わったら働く」のではなく、行き来しながら学んでいきます。
- 義務教育を終えたあと、一旦働いてから学校に戻る人が多い
- 専門学校で学ぶ→働く→また別の学校へ、という流れも一般的
- 17歳までのすべての若者は、就労している人も含めて何らかの教育・訓練が保障されている
「いつでも学び直したいと思ったら戻れる」――この柔軟さは、人生の選択肢を広げてくれる魅力的な仕組みだと感じます。企業の中での教育も保障の対象になっている点も、日本とは大きく異なります。
ノルウェー:早くから始まる起業家教育
北欧のノルウェーも特徴的です。進学準備コースと職業教育訓練コースがしっかり分かれているほか、最新の教育にも力を入れています。
- 2006年から起業家教育(アントレプレナー教育)がスタート。しかも必修
- テクノロジーやデザインなどの領域を選択で学べる
- 最新技術を身につけられる、柔軟な職業教育になっている
同じ「先進国」でも、教育のあり方はこんなに違う
欧米という大きなくくりの中だけを見ても、職業教育のあり方はまったく違います。ここから、私たちが考えるヒントが見えてきます。
- 学校制度を変えれば、進路は大きく変わりうる
- ただし制度は国の伝統や歴史に深く根ざしている
- だからトップダウンで一気に変えるのは難しく、反発も起きやすい
たとえば日本がドイツのように「10歳で進路を分岐」させれば、目的が明確になり、学費の無償化や予算配分はやりやすくなるかもしれません。しかし、感覚的な反発は避けられないでしょう。今の制度に強く困っているわけではない以上、ガラッと変えるよりも「マイナーアップデート」を重ねていくのが現実的なのかもしれません。
大切なのは、海外の事例を「どこを取り入れればいいのか」という視点で見ること。次回は、こうした事例をもとに、これからの職業教育について自論を交えながらディスカッションしていきます。
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