学校の先生といえば「公務員で安定」「評価なんてなさそう」というイメージを持っている方が多いのではないでしょうか。しかし実は、2000年代初頭に学校や教師のあり方は大きく変わりました。この記事では、普段は見えない学校運営と教師評価の裏側を、わかりやすくお届けします。
先生は本当に「評価されない」職業なのか
多くの人が知らないのが、現在の先生たちはしっかりと評価される仕組みの中で働いているという事実です。かつての学校組織とは大きく変わっています。
かつての学校はどうだったのか
もともと学校の先生は公務員であり、強い評価制度はありませんでした。いわゆる年功序列(勤続年数に応じて給与や地位が上がる仕組み)の世界だったのです。
- 解雇されることはほぼない
- 給与は年齢とともに自然に上がっていく
- 先生同士で競争する必要がなかった
- 評価らしい評価は、管理職に上がるときくらい
なぜ変わる必要があったのか
1990年代半ばから2000年代初頭にかけて、「良い先生はきちんと評価し、そうでない先生にはもっと頑張ってもらう」という考え方が広がりました。これはバブル崩壊後に能力主義・成果主義へと舵を切った民間企業とよく似た流れです。
学校に企業経営を持ち込む「NPM」とは
この改革の背景にあるのが「ニューパブリックマネジメント(NPM)」という考え方です。少し難しい言葉ですが、中身を知ると学校の変化がよく見えてきます。
ニューパブリックマネジメントの考え方
ニューパブリックマネジメント(NPM=公共部門に企業経営の手法を取り入れる考え方)を一言で言うと、「公務員のような公共部門に、民間企業の経営手法を導入すること」です。キーワードは次の通りです。
- 競争原理:競争させ、順位をつける
- 評価による管理:きちんと成果を測る
- 権限集中と効率化:トップダウンでマネジメントする
- 顧客主義:子どもや保護者を「お客様」とみなす
それまでの学校には、競争も評価もほとんどなく、物事はみんなで話し合って決める「合議制(関係者全員で議論して決める方式)」が基本でした。そこに法律レベルで大きな変化が加わったのです。
知られていない「大きな変化」
これは実はとても大きな変化でした。しかし、ビフォーアフターを知っているのは先生だけ。子どもは卒業していくため、「前はこうで、今はこう変わった」と比較できる人がほとんどいないのです。だからこそ、この改革はあまり知られていません。
校長のリーダーシップが学校を変える
改革によって最も大きく変わったのが「校長先生の権限の強さ」です。学校の方針が校長によって大きく左右されるようになりました。
校長が変われば学校が変わる
現在は、学校の特色や何にどれだけ取り組むかという裁量が、校長先生に強く与えられています。これにはメリットもあります。
- 改革のスピードが大きく上がった
- 公立学校でも独自の新しい教育に取り組みやすくなった
- ICT教育(パソコンやタブレットを使った学び)などを一気に進められる
一方で、課題もあります。「校長が変わると学校の経営方針が変わる」とよく言われるように、新しい校長が「ICTはいらない」と判断すれば、それまで使っていた機器を使わなくなる、といった事例も実際に起きています。
職員会議は「決定の場」から「通達の場」へ
かつての職員会議は、みんなで話し合って決める合議制の会議でした。しかし改革後は、校長・副校長・教頭・主幹教諭(意思決定に関わる管理職層)が決めたことを伝える場へと性格が変わっています。一般の先生は「決められたことを実行する役割」として位置づけられるようになりました。
ただし現場では、各専門グループ(特別支援・情報など)で話し合った内容をグループのトップが管理職に上げる、というボトムアップの仕組みも残っています。最終的に「GOを出すかどうか」を管理職が判断する点は、企業で社長や決裁者が判断するのとよく似ています。
先生の評価制度と人事制度はこう変わった
「公務員は評価されない」というイメージは、もう過去のものです。今の先生たちは、民間企業さながらの評価の中で働いています。
毎年の目標設定と自己評価
先生たちは毎年度、個人の目標を設定します。その流れは次の通りです。
- 年度はじめに「今年はこう取り組む」と目標を宣言する
- 達成度を自分で振り返る(自己評価)
- 校長先生など管理職が評価をつける(管理職評価)
- その結果が給与・昇進・配置に連動する
目標は、最初は「ICTを活用した授業を頑張る」といったゆるやかなものから始まり、「年間授業のうち何%でこう取り組む」といった具体的な形へ落とし込んでいくことが多いようです。
学校の外からも評価される仕組み
評価は学校内だけではありません。たとえば東京都では、教員の役職が段階的に分かれています。
- 教諭
- 主任教諭
- 主幹教諭
さらに上に副校長・校長が重なります。かつては教諭のままでも給与が上がり続けましたが、現在は一定のところで頭打ちになるため、昇給や昇格のためには試験を受ける必要があります。この試験は自治体(行政)からの評価にあたり、学校内外の両方で評価されるタイミングが多いのが特徴です。
「先生を評価する」ことの難しさ
とはいえ、授業や子どもとの関わりを数字で評価するのは簡単ではありません。評価の難しさは、一般企業とも共通する永遠のテーマです。
すべての授業は見られない
大規模な学校では先生が50人近くになることもあり、校長先生がすべての授業を見て評価するのは現実的ではありません。評価基準をそろえないと公平に比べられないという難しさもあります。
「子どもに好かれているか」は評価になるのか
一つの材料として「子どもにどれだけ信頼されているか」があるかもしれません。ここで大切なのは、単に甘い先生が好かれるわけではないという点です。
- 面白い授業をつくれる先生は子どもを惹きつける
- 「ここは怒る」「ここは許す」というルールを一貫して示せる先生は信頼される
- 厳しくても、学級経営がうまくいっている先生は結果的に慕われる
信頼は日々の積み重ねから生まれます。評価のしづらさは残りますが、授業力や学級づくりの力が、最終的に子どもとの関係に表れていくのです。
改革がもたらした光と影
最後に、この改革の結果どうなったのかを整理します。良い面と課題の両方を知ることが大切です。
プラスの変化
- 改革やプロジェクトが進みやすくなった
- 運動会を「学習発表会」に変えるなど、管理職の判断で柔軟に変えられる
- 「この取り組みは誰が担当か」という責任がはっきりするようになった
- キャリア教育など、外部と連携した新しい取り組みが進めやすくなった
見過ごせない課題
一方で、先生同士が横で支え合う「同僚性(職場の仲間として助け合う関係)」が薄れたのではないか、という指摘もあります。競争や個別評価が進むことで、チームとしての一体感が失われるリスクがあるのです。
これは学校だけの問題ではありません。成果主義を取り入れた多くの職場で起こりうる、私たち自身の働き方にも関わるテーマだと言えるでしょう。
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