「主体性を持ちなさい」とよく言われますが、その意味は場所によって大きく違うようです。今回は職場で求められる主体性の正体と、学校教育とのギャップについて考えてみます。
主体性は「個人」から「組織のため」へ変わってきた
かつて個人の資質だった主体性が、2020年頃から組織のメリットのために求められるものへと変化しています。まずはその移り変わりを見てみましょう。
1990年代の主体性は「行動力」と結びついていました。しかし2010〜2020年代になると、主体性は「思考力」や「チームワーク」といった言葉と結びつくようになります。
さらに近年の特徴として、主体性が「組織になくてはならないもの」へと拡張されてきました。求人票にはこんな文言が並ぶようになっています。
- 「組織に自ら変化・創造をもたらす人材」
- 「お客様のビジネス価値向上のために深く考え、主体的に行動できる人」
つまり、自社の利益やお客様のために主体性が必要だ、というところまで意味が広がってきているのです。言われたことをこなすだけでなく、「こう改善すればもっと良くなります」と自分から提案できる人材が求められている、というイメージですね。
なぜここまで主体性が求められるのか
背景には、社会変化のスピードがあります。変化が速すぎて、上司に聞いても答えが返ってこない時代になりました。だからこそ若手社員も、自分で新しい情報を集め、進むべき方向を自分なりに考えることが求められているのです。
企業が評価する主体性の「3つの要素」
ある研究者は、企業が主体性を評価するには3つの要素が連携している必要があると指摘しています。この3つがそろって初めて「主体性がある」と評価されるのです。
その3つとは、次の通りです。
- 自分なりに考える(提案する力)
- それを発信する(アイデアを表明する力)
- 人と協力してやる(周囲を巻き込む力)
ポイントは「連携している」こと。たとえば「考えて発信する」だけでは、周りに浸透させて一緒に動いていないため、主体性があるとは評価されません。逆に「発信して協力する」だけでも、自分なりの考えがなければ主体的とはみなされないのです。
これは、それぞれ全く違うスキルを3つも同時に求められているということ。かなりハードルの高い話だと言えます。
学校の学びに3つの連携を持ち込めるか
この「3つの要素」は、実は教育現場を考えるうえでもヒントになります。学校での学びと照らし合わせてみましょう。
今の学校現場では、3つの要素それぞれはどこかに存在しています。
- 「自分で考える」→ 個人探究の学習
- 「発信する」→ 探究の成果発表
- 「協力する」→ 協働的な学び
しかし、3つが関連しながら進む学習は案外多くありません。探究学習では個人で完結しがちで、逆に協働学習では一つのゴールに向かうため個人の意見が埋もれてしまう、という傾向があるのです。
「解決する問題」の設定が課題に
「何かを解決する」ことをゴールにすれば3つを連携させやすくなりますが、ここにも難しさがあります。学校で解決課題を設定すると、多くの場合こんなテーマに落ち着きがちです。
- 地域振興(お祭りや施設づくり)
- 防災(ポスターづくりや啓発)
- 環境問題(ゴミ削減の啓発活動)
これらは問題が大きすぎて、子どもたちだけで本当に解決できるものではありません。だからこそ、もっと身近なテーマに落とし込む工夫が求められるのではないでしょうか。
就職で生まれる「主体性ギャップ」の正体
企業は「学生に主体性がない」と言い、学生は「自分に主体性がないとは思っていない」。このすれ違いはなぜ生まれるのでしょうか。読者のみなさんにとっても身近な問題かもしれません。
答えはシンプルで、企業が求める主体性のハードルが非常に高いからです。「自分の会社を良くするために」というレベルまで求められているのですから、当然と言えば当然です。
学校では「あなた自身が主体的かどうか」で評価されます。しかし社会に出ると「組織や顧客にとって主体的かどうか」という別の軸で判断されます。この評価軸の違いが、就職時のギャップを生んでいるのです。
さらに、こんな指摘もあります。
- 仕事の面白さを内発的に見つける前に主体性を求められるため、「まずやってみて楽しくなる」という戦略が取りづらくなっている
- 昔は「主体的にならざるを得ない場」に置かれて主体性を身につけた世代が、体系化された今の職場で若手に「主体性がない」と言う、世代間ギャップがある
「主体性を育成する研修」という矛盾
ギャップを埋めるため、今は社員向けの「主体性育成研修」が数多く行われています。しかし、ここには面白い矛盾が潜んでいます。
主体性を「育成する」「管理する」という時点で、それは本当に主体的と言えるのでしょうか。管理された枠の中で育まれる主体性は、根源的なところで矛盾をはらんでいます。
とはいえ、そうした場がなければ主体性を育む機会そのものがない、というジレンマもあります。スタートアップやベンチャーのように「主体的にならざるを得ない場」なら自然に身につきますが、大きな企業では意図的に場を用意する必要があるのです。
職場も学校も、この「主体性」というテーマの前ではままならない――そんな現状が見えてくるお話でした。
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