「行かなくていいよ」の後に待っているもの
「学校がつらいなら行かなくてもいい」――最近よく耳にする言葉です。でも、行かなくなった“その後”を支える仕組みは、意外なほど語られていません。今回は、ある生徒さんの実体験から、自由になった先に待つ現実を考えます。
自由になると、人はどうなるのか
学校に行かなくなった生徒さんのログ(記録)を見ると、まず最初に消えたのは「朝起きて机に向かう習慣」でした。これは本人がだらしないからではありません。誰にも縛られず、時間割もなくなったとき、多くの人が同じ状態になります。
- 何をしたらいいか、どこから手をつけたらいいか分からなくなる
- 「今日ぐらいまだ大丈夫」とスマホを開く
- 気づけばお昼、食べたら眠くなって昼寝、また飽きてスマホ
- 親が帰ってきて「何してたの?」と言われ、「明日から頑張る」
これは高校生だからでも、特別な人だからでもありません。責任のない自由を与えられたら、大人でも同じようになる――まずこの「トラップ(わな)」を知っておくことが大切です。
目標があっても、人は動けなくなる
「目標があればちゃんとやれるはず」と思いがちです。でも実際は、しっかりとした目標を持っていても、人は自分をコントロールしきれないものなのです。
目標はあった。それでも難しかった
この生徒さんは「1年半後には大学生になっていたい」「高校に通っていた頃のように、やることをやれていた自分に戻りたい」と、きちんと意識も目標も持っていました。それでも、自由になった途端に動けなくなってしまったのです。
スマホを開けば、面白いものがすぐそこにたくさんあります。それに抗って勉強を続けられる人は、むしろごくわずか。だからこそ「できない自分」を責める必要はありません。
本当に必要なのは「行かなくていい」の“次”の支え
「無理して行かなくていいよ」と言うのは簡単です。でも、行かなくなった後のことを誰も語らないことこそが、実は一番の問題なのかもしれません。
「行かなくてもいい」で終わらせない
学校を離れるのは選べても、「じゃあ、その後どうするか」は自分で考えなければなりません。けれど、それを考えるための材料を、生徒本人が持っているとは限らないのです。
- 行かない選択はできても、その後をサポートする人は身近にいない
- サポートを外に求めるとお金がかかる
- 結果として「学校に行かない」という選択がしづらくなる
裏を返せば、それだけ「学校」という場が持つ機能はとても大きいということです。生活リズムを整え、やるべきことを示し、背中を押してくれる――その機能がなくなると、自分で自分をコントロールする難しさに直面します。
「発破をかけてくれる人」の価値
この生徒さんのサポートは、週1回・1時間の対話から始まりました。最初の目標は、たった「1日30分の勉強」。まずは机に座る習慣を取り戻すところからです。
- 生活リズムが崩れ、スマホから抜け出せない状態からスタート
- いきなり受験科目ではなく、興味のある韓国語から始めた(ホームステイで留学生が来る予定があった)
- 韓国語1時間、数学1時間など、少しずつ範囲と時間を増やしていった
好きなことから始められるのは、学校に縛られていないからこその強みでもあります。大切なのは「とりあえず座る」「ちょっとでもやる」という一歩を、誰かと一緒に積み重ねることなのです。
「続けられる仕組み」が人を変える
やる気だけに頼らず、続けられる小さな仕組みをつくること。それが、自由の中で自分を立て直す鍵になります。
単語テストという“最後の砦”
この生徒さんが1年以上ずっと続けたのが、毎週の英単語テストでした。
- 覚えやすい単語ではなく、あえて「忘れかけている単語」が出される
- それでも8割以上はずっとクリアし続けていた
- 「これをやらなくなったら、本当に何も勉強しなくなる」という感覚があった
やったかどうかが一目で分かる、分かりやすい取り組み。これが「最後の砦」となり、完全に勉強から離れてしまうのを防いでいました。
現実を直視するところから
共通テストの過去問は、最初は数学1A(アイエー)で28点ほど。本人も「1年後に本当に解けるのかな」と感じたそうです。でも、「やっていないからできない」という現実を受け入れるところからスタートし、少しずつ積み上げた結果、志望大学に合格しました。
学力がまだ十分に伴っていなくても、「ここから頑張るしかない」と前を向けること。その土台をつくったのは、自由の中で孤立させず、伴走してくれる人の存在だったのです。
読者のみなさんへ――身近な問題として
「不登校」や「学校に行かない選択」は、どこか遠い話に聞こえるかもしれません。でも、自由を前に動けなくなるのは、テスト前の自分、休日の自分、在宅勤務の自分と、誰にでも起こることです。
- 自由になると、目標があっても人は動けなくなることがある
- それは意志が弱いからではなく、人間として自然なこと
- 大切なのは「やめていい」の次を支える、小さな仕組みと伴走者
もしあなたやあなたの大切な人が、自由の中で立ち止まっているなら、責める前に「一緒に机に向かってくれる人」を探してみてください。それだけで、次の一歩は驚くほど軽くなるはずです。
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